LunaTone代表のヒョン・バロは、毎月のように海外へ飛び、世界中のeスポーツビジネスの最前線を駆け回っています。カンファレンスではパネリストとして登壇し、企業・自治体・プロチームとミーティングを重ね、次の時代のeスポーツの形を模索するために。そんなバロが「今月見たもの、感じたこと、考えたこと」を聞きました。世界と日本のeスポーツをつなぐリアルな視点を共有します。
ヒョン・バロが振り返る、2月
―― 2月が終わりましたね。バロさんにとって、どんな時間でしたか?
バロ:そうですね……ちょうどオーブンの中で膨らんでいくスフレのような時間でした。手応えはあるけれど、まだ仕上がりには時間が必要。慎重に温度を見極めないと、うまく膨らまないこともある。
―― 「見極め」が重要な月だったと。では、そんな2月の中で、印象的だった出来事は?
バロ:やはり「Apex Legends Global Series(ALGS)」の世界大会はひとつのハイライトでしたね。
――すごかったですね! スタジアムの熱気が画面越しでも伝わってくるようで、結局オンラインで全日程観戦してしまいました。あの歓声、会場を包む一体感……やっぱりeスポーツは”スポーツ”なんだなと改めて感じました。バロさんは、どうご覧になりましたか?
劇的だった、Apex Legendsの世界大会が教えてくれたこと
バロ:本当にドラマチックな大会でした。Apexの国際大会は、もともと競技シーンが成熟していてファンの熱量も高いですが、今回の札幌開催は特に意義深かったと思います。
―― 「地方での成功事例」として、でしょうか?
バロ:それもあります。「地方開催で本当に人が集まるのか?」という疑問もありましたが、結局、最終日には1万人以上の観客が詰めかけ、大盛況でした。しかも、ただの観客ではなく、明確に推しのチームや選手を応援しに来たファン。eスポーツはまだまだ伸びる、と確信できる大会でしたね。
―― 僕が思うハイライトは日本代表のFNATICがチャンピオンをとったマッチ。会場全体が割れるような歓声に包まれましたよね。あのシーンは、リアルスポーツの”歓喜の瞬間”と何ひとつ変わらなかった。
バロ:ええ。eスポーツの大会は、体験の質が重要です。観客が「来てよかった」と思える環境を作ることで、スポーツとしての価値が高まる。今回のALGSは、その点で大成功でした。
――地方開催の成功要因には、土地の魅力も左右するでしょうか?
バロ:そうですね。冬の札幌には、雪景色やウィンタースポーツ、食文化といった「行く理由」がたくさんあります。大会単体ではなく、都市の魅力とセットで考えることで「eスポーツ観戦旅行」という新しい形が見えてくる。
――なるほど。「観戦のために行く」のではなく、「観戦をきっかけにその土地を楽しむ」という形が理想的なのかもしれませんね。
さらに広がる、eスポーツ×観光の可能性
―― バロさんは南の島にも出張で行かれていましたよね。どんな動きがあったんですか?
バロ:eスポーツを活用した観光振興が動き出しています。今年度から本格的な調査が始まり、自治体と協力しながら「世界大会を誘致するには何が必要か?」を分析しています。
―― 具体的にはどんな取り組みを?
バロ:たとえば、海外のeスポーツ大会を視察して、成功例と課題を学ぶこと。韓国やオランダなどの自治体の方々と一緒に海外での大会や施設を訪れ、運営や環境の作り方を研究しています。
――南の島ならではの「この場所だからこそできるeスポーツイベント」、考えがいがありそうですね。
バロ:ええ。札幌と同じく、観光資源と組み合わせることで、より魅力的な大会になる可能性があります。
自治体による先進的な取り組み──茨城県・メタバース留学
――2月はもうひとつ、LunaToneが取り組んだイベントで、個人的に「すごいな」と思った取り組みがありました。茨城県が実施した「メタバース留学」です。
バロ:はい。「いばらきメタバース交換留学 2024」として、茨城県が主催し、LunaToneが企画・開発しました。日本と韓国の学生が、メタバース空間の中でチームを組み、謎解きをしながら交流するプログラムです。
――県がこうした新しい教育プログラムを導入するのは、かなり先進的ですよね。
バロ:そう思います。行政主導で「メタバース×教育」の実証実験を行う事例は、日本ではまだ少ない。特に、”ゲームを通じて異文化交流を促す”というアプローチがユニークでした。
――eスポーツもメタバースも、単なるエンタメとしてではなく、”社会的な価値を生むツール”として活用できる。茨城県の取り組みは、それを示した好例かもしれませんね。
バロ:ええ。これからこうした試みが全国に広がる可能性は十分にあります。
eスポーツの未来のための「哲学」
――2月はさらに文化資源が豊富な自治体にも行かれたそうですね。
バロ:はい。ここでもeスポーツに関心を持つ行政の方々と話す機会がありました。印象的だったのは、「この町は未来に向けて何を軸にするべきか?」という議論でした。そこで「哲学」という言葉が中心になっていたことが非常に興味深いものでした。
――観光資源や産業ではなく、哲学ですか?
―― バロ:ええ。テクノロジーが発展し、社会の価値観が変化するなかで、「文化をどう受け継ぎ、新たな形にするか?」を考えるために哲学が必要である、と。ただeスポーツを取り入れるのではなく、あくまでもフィロソフィーに基づく活用でなければならないとする考え方でした。
―― 伝統をそのまま残すのではなく、なにを、どう残すのかということの基準に哲学を持つということですよね。さらに、この哲学が「今の時代にどう解釈し直すか?」という観点からも示唆を与えてくれるはずです。
バロ:そうです。たとえば、この町には職人文化や伝統芸能が根付いていますが、それを単に保存するだけではなく、どう現代にフィットさせるかを考えている。そのプロセスに哲学が必要だと。
―― 「文化の翻訳装置としての哲学」というわけですね。
バロ:まさにそうです。哲学があるからこそ、伝統は時代にフィットするように形を変えて受け継がれていく。そういう町のあり方を目指しているのが印象的でした。
eスポーツの未来──日本と世界の間で
―― 文化の再解釈という意味では、eスポーツもまだ「定義が揺らいでいるもの」かもしれませんね。日本では「ゲーム=遊び」という認識が根強いですが、世界では「スポーツ」としての価値が確立しつつある。
バロ:そのギャップは確かにあります。たとえば、韓国ではeスポーツが国家戦略の一部として扱われ、教育や産業とも結びついています。一方、日本では「プロゲーマー=特別な存在」として見られがちで、まだ一般化していない。
――では、日本でeスポーツをもっと社会に根付かせるには、どうすればいいのでしょう?
バロ:まず「プレイヤーの多様化」が鍵になります。日本では「eスポーツ=若い男性が競技するもの」というイメージが強いですが、海外では年齢や性別を問わず幅広い層がプレイし、観戦しています。
――つまり、より広い層に開かれた形に進化する必要がある、と。
バロ:はい。そのためには、「競技シーン」だけでなく「観戦文化」も広げることが大事です。札幌のALGSのように、「eスポーツを観ること自体が楽しい」という環境を作ることが、長期的には市場の成長につながります。
――日本でのeスポーツの未来は、競技者だけでなく、観る人・支える人を増やすことにある、と。
バロ:そう思います。そして、それを実現するためには、地方での大会開催や、企業・自治体との連携が重要になってくるでしょう。
交わり、広がる3月へ
――さて、2月を振り返っていただきましたが、あらためて英単語で表すなら、どんな言葉がふさわしいでしょうか。
バロ:「Convergence」ですね。異なるものが交わり、新しい形を生み出す。そんな1ヶ月でした。
―― では、3月は?
バロ:「Expansion」です。ここからどう広げていくかが大事になる時期だと思っています。
――では、3月も「マンスリー・バロ」をやりましょう。その頃には、スフレもふんわり膨らんでいるかもしれませんね。
text by Tsuzumi Aoyama
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